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静岡地方裁判所 昭和63年(わ)107号 判決 1988年5月24日

本籍

静岡県下田市二丁目五八二番地の二

住居

同市二丁目九番二九号

板金業経営

土屋大吉

大正五年一〇月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官和田英一出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金二五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、静岡県下田市二丁目九番二九号に居住し、同所において板金業を営むかたわら、自ら株式の投機売買を行なうなどして多額の所得を得ていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右売買取引名義を自己以外に家族及び借用名義で行うなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五九年分の実際の総所得金額が六四四〇万三一五三円で、これに対する所得税額が三一四一万一五〇〇円であったのに、昭和六〇年三月一三日、同市六丁目三番二六号所在の下田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二九四万九七七六円で、これに対する所得税額が二万八七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、正規の所得税額との差額三一三八万二八〇〇円を免れ

第二  昭和六一年分の実際の総所得金額が九八二九万一五五一円で、これに対する所得税額が五四二九万四三〇〇円であったのに、昭和六二年三月九日、同所において、同税務署長に対し、所得金額が六四万六八八八四円で、これに対する所得金額が零円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、正規の所得税額との差額五四二九万四三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書七通

一  土屋よし江、土屋新一郎及び木崎久雄の検察官に対する各供述調書

一  土屋よ志江(二通)、木崎篤子、若林梢、鈴木光一(二通)、鍵山定男、土屋新一郎、土屋紀美子、木崎久雄及び土屋勇の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料及び査察官調査書(一二通)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(五九年度分)及び昭和六二年一一月六日付け証明書(五九年度分)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(六一年度分)及び昭和六二年一一月六日付け証明書(六一年度分)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、その免れた所得税の額がいずれも五〇〇万円をこえるので、情状により同条二項を適用し、各所定刑中懲役刑と罰金刑とを併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金二五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は株式投機によって利益を得ていた被告人が、自己以外の者の名義を利用し、株式売買の回数を少なく見せかけるなどして右利益及び配当金全額の所得隠しをなし、昭和五九年及び昭和六一年の両年度にわたり合計八五六七万円余りをほ脱したという事案であり、ほ脱額も多く、また動機において特に酌むべき点もなく、かつ、過去に税務署からの指導を受けていながら、あえて不正な申告をしたもので、悪質な脱税犯といわなければならない。

しかしながら、被告人が公判廷で公訴事実を素直に認めて二度と不正な申告をしない旨誓っていること、被告人は起訴前に修正申告をなし、その支払い及び重過算税の支払もなしていること、被告人は高齢であり身体の拘束が必ずしも妥当でないこと及び被告人には前科・前歴がないことなど、有利に斟酌すべき事情もあるから、これらの諸点を考慮した上、懲役刑については刑の執行を猶予するのが相当であると認め、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑、懲役一年六月、罰金二五〇〇万円)

(裁判官 青木正良)

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